She's Lost Control

記録とメモ。

『ロスト・ハイウェイ』レビュー/妻殺しの記憶

 

ロスト・ハイウェイ

 

「ゆうべ夢を見たんだ。 

君は家の中にいた。

でもそれは、君に似てたけど別の女だった。」

 

ろすとはいうぇいとはいったいなんだったのか…。

悪夢から目覚めるようにエンドを迎える今作『ロスト・ハイウェイ』は一度観ただけで全てを理解できるのなら、わたしはあなたがどんな人なのか知りたい。心の強い人なのか、はたまた押し潰されてしまう人なのか。大抵は押し潰されてしまう。人が人を完全に理解できないように、眠りの中夢を見るのはいつだって自分ひとりだ。他人の夢に入り込んだところで、舵を切ることなどできない。自分ですらコントロールできないものを。

 

 

 

はっきり言って『ロスト・ハイウェイ』わけが分からない映画なんだ。ヒントを繋ぎ合わせて答えを得るためには、頭を整理しなくちゃならない。正解があるのかも分からないまま、貰った地図を手に歩く。真夜中の遊園地をグルグルと回っている気分。それもひとりぼっちで。どの遊具も7色の蛍光灯を光らせ、忙しなく働き続けている。『ロスト・ハイウェイ』はわけが分からない映画でも、楽しめないわけじゃない。だからこそ、しばらくの間は夢見心地でいたい。映画の中の悪夢が現実にまで忍びこんでくるのを楽しんだ方がいい。

 

 

ロスト・ハイウェイ

 

ある日を境に、ジャズ・ミュージシャンのフレッド・マディソンの家には毎朝ビデオテープが届くようになる。最初の一本は家の前を撮影しただけのものだったが、次の日に届いたビデオテープは、家の中に侵入し、フレッドとその妻のレニーが寝室で眠る姿まで映し出していた。恐ろしくなった2人は警官に相談するのだが、家に侵入された形跡が見つかることもなかった。そして次の朝、3本目のビデオテープが届く。そこに映し出されていたのは、妻レニーを殺す血だらけになったフレッドの姿だった。これを証拠に、フレッドは妻殺しの罪で独房に入れられ死刑を宣告される。

 

「記憶は常に自分なりに」

「と言うと?」

「起こったとおり記憶したくないんです」

 

これは2本目のビデオテープが届いた時に、家を訪ねた警官の質問に答えるフレッドのセリフだ。この映画は、どこを真実として捉えるかがポイントになるのではないだろうか。映画は現実ではありえない展開をしていくのだが、すべてが「起こったとおり記憶したくない」フレッドの記憶全てだとしたら、私たちはフレッドの無意識の意識を探らなければならない。しかしそれは、「起こったとおり記憶したくないフレッド」を作りだした他の誰かの記憶である可能性だってあるのだ。なんだって条理の適わないこと全てにこじつけることができる。与えられたヒントすら「起こったとおり記憶したくない」誰かの記憶であれば、鑑賞者は黙って己の目が覚めるまで悪夢を見続けるしかない。これが夢だと気づかないまま、映画全てが自分の妄想の一部となっていく。考えたくない、考えたくないよー…。

 

 

ロスト・ハイウェイ

 

とは言っても、「妻を殺したフレッド」が唯一の真実だとすれば、これは楽な映画なのだ。「妻を殺したフレッド」は独房の中か、はたまた逃走の最中、現実を受け入れられないまま悪夢に憑りつかれるように、気を狂わせ夢を見ている。妄想ではない。なぜならフレッドはことの成り行きをコントロールできてはいないから。コントロールできるのなら、人は欲しいものを欲しいだけ手に入れる妄想をするもの。しかし映画は、断片的に悪夢を放り込む。そして夢は意識を反映させる。彼の夢の中の幸せと焦り、感情の沸点を掻い摘むことが出来れば、現実で実際に彼が何を恐れ、何を欲しがり、そして何に怒りを抱いていたのかが見えてくるのではないだろうか。

 

答えが出れば、この映画もまたあなたの夢の一部となる。もちろん無意識下で。答えが間違っていようと関係なく、一部となる。

しかしながら、今作品を観終わったあと、「ああ、ひどい夢だったな」と言って、ぼーっとしながら横になるのも気持ちがいいんだ。それは、自分の夢を、誰がどんな理由があって自分に見せているかなんて大抵は考えないものだからだ。

 

 

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